箱日記

ライブに行った感想を細々とつづっています。

2018年10月8日 打首獄門同好会 THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL

鹿児島という端っこの地で比較的大きなフェスが初めて開催される事を知ったのは、会長のツイートであった。出演者発表の第一弾だったので、開催日は10月だというのに随分と早い段階でチケットを押さえた。
福岡と鹿児島は同じ九州とはいえ、けっして近いとは言えない距離である。しかしながら鹿児島はつい3年前まで暮らしていた土地であり、加えて今年の3月までは月に3~4回は仕事で訪れていた。そうした理由から、物理的な距離に比べて心の距離が近く、家族で参戦するハードルは他の地域よりもぐっと下がっていたのだった。

 

鹿児島県は薩摩半島大隅半島に分かれており、桜島はその間に存在している。活火山で小さいものも合わせれば年に100回とはいわないほど噴火しているその場所に、普通に暮らしている人がいるというよく考えればものすごいところだ。
九州新幹線が開通し、その終点となる鹿児島中央駅に降り立てば、目の前にその姿を拝むことができる。よくある観光地とは違い、分かりやすいまでにまさに「顔」として君臨しているのだ。
そしてそこから市電で十数分という短い時間で、桜島フェリーの乗り場へとたどり着く。今回わたしたち家族は福岡から車で移動したのだが、高速の降り口から考えたとしてもけっして遠い距離ではなく、とにかく市街地と近しい場所にその火山は存在しているのだった。
逆側まで車を走らせれば陸続きで移動できるのだが、それは大隅半島で暮らす地元民のルートであり、遠方から訪れる場合はフェリーで渡るのが一般的だ。
イベント開催を目指して県外から人が続々と集まるのだが、交通手段がフェリーとなればどれほどに混雑するのだろう。いくつかのルートがあるならば分散することもできるが、出演者や飲食ブースのスタッフなどを含めて、フェスに関係する人たちのほとんどが、フェリーを使うとなるとどうなってしまうのか。
その懸念は主催側も早いうちに感じたようで、当初の予定から大幅に早まり、スタートよりも3時間早い6時30分がオープン時間となった。

夜走りで鹿児島入りし、朝一番に桜島に渡ろうと思っていたのだが運転手である夫とも話し合い、前泊後泊で2泊3日という贅沢な参戦となった。
近々で宿泊場所が確保できるかと不安に思いながら調べてみると、アクセスも悪くなく金額も良心的なホテルにいくつか空きがあり、急いでそこを押さえる。
開催の1か月前に出演予定だったマキシマムザホルモンがダイスケはんの頸椎ヘルニアの手術による活動休止を受け、直前のキャンセルという形になってしまったことが影響していたのかもしれない。

我が家は夫が、ホルモンが好きで、最終出演者発表でホルモンの名前が出た時は「これもある意味夢のカード…」と思ったものだ。しかしながら約1か月前にその夢がかなう瞬間は先送らざるを得なくなり、世の中の推しには何は無くとも健康でいてほしいと祈るばかりである。

とにもかくにも前日入りしたわたしたちは、前夜祭と称して美味い酒と美味い魚と美味い肉を食らうという、スペシャルな時間を過ごし、4時半というアラームが何一つ鳴る事がなかったというアクシデントに見舞われながらも5時台には何とか目を覚ましてフェリー乗り場へと向かった。

チケットを握りしめ、たどり着いたフェリー乗り場は思ったより静かだった。それでも思い思いのバンドTに身を包んだ人たちが、停泊している船内へと乗り込んでいく。住んでいた頃はこんな朝早くのフェリーに乗船した事は無いのでわからないが、誘導する職員の少し緊張してオーバーアクションになっている様を眺めながらも、さほど混雑する事もなく出発の時を待つ。
こうぺんちゃんTを身にまとった息子と甲板に出て、わずか15分ほどしかない移動を楽しんだ。電車や新幹線、飛行機などでの移動はそろそろ慣れてきているが、やはり船となればあまり乗る機会はない。はしゃいでいる姿を近づいてくる桜島をバックに写真を撮った。

発表されたタイムテーブル上でお目当ての出演者に丸をつけて、それはTwitterのTLでよく見る画像であり、実は一度やってみたかったことだ。


打首さんの出番はちょうどお昼。メシテロタイムに打首さんという組み方は、ある意味スタンダードだ。わたしは2日目しか参戦しないため1日目の方はほとんどチェックしていないが、今回が初開催ということでフェスといえば! といったような非常にオーソドックスなブッキングなのではないかと思う。

たどり着いた駐車場に車の数は非常に少なく、広いグラウンドに数台しか止まっていない。とにかくボランティアスタッフも慣れておらずたどたどしい雰囲気がにじみ出ていたが、さして混み合う事もなく車を止めることに成功した。
受付でチケットを渡しリストバンドと交換する。紙でできたそれは少し頼りなくも思ったが、案の定同じ右腕につけているラババンに押されてすぐにシワができてしまった。
列とも呼べないほどのスムースな移動で会場に入ると、出演者たちの写真が飾られている。入口からまっすぐ伸びた道の右側にそれはあり、物販や飲食ブースやテントスペースなどがある『与論ステージ』へとまずは足を踏み入れる。

会場マップを見た時にはもう少しメインステージと近い位置にあるのかと思っていたが、明らかに離れていて驚いた。道路を越えていくのはマップ通りではあるが、メイン会場は少し上がったところにあって、テントスペースにいながら遠目でもそちらを見るということが出来ない。
ということは飲食店ブースで食べ物を選びながらメインステージの様子を伺うということができないということであり、それはどうなんだろうなと思いつつ、すでに列が出来ている物販スペースを眺めた。

わたしはフェスに参加するのは2017年のNUMBER SHOT(福岡)に続いて2回目のことで、いろいろと勝手が分からない。物販はアーティスト別のブース型だと思い込んでいたら、どうやらオフィシャルグッズもあわせて全てのものがひとつのスペースで売られているようだった。
これは並ばねばと慌てて列の中に入る。

今日はトッパツのヤバTから四星球→打首さんと観る予定にしていたので、なるべく早くこの列から抜け出さねばならない。リハの音がメイン会場から聴こえてきている。時刻は8時を回っていた。

どうも物販とは縁がない。獄バンドは売切れてしまっていて買うことが出来なかった。今日の鹿児島を終えたら打首さんは大分、愛媛とヤバTのツアーに参加するので、そちらの分もあるだろうし、フェス物販自体に個数制限のようなものがあったのかもしれない。…欲しかったな。

獄T、獄パンの人をポツリポツリと見かけて、ああ獄の人だ!と思いつつ、当たり前だが知らない人なのでそっと陰から「打首さん、最高っすよね!」という念を送る程度に留める。

ステージは撮影禁止だったので、写真は公式のものを参照してもらうことにして、とにかくステージの後ろ側に悠然と構える桜島というロケーションは最高だったと思う。
薩摩ステージと大隅ステージと名付けられた二つのメインステージは隣り合っていて、移動も楽ちんだ。向かって左側の薩摩ステージでのヤバTが終わると、ざざーっと人が大隅ステージの方へ動いていく。
音出しする四星球を後方から眺めていたけれど、なるほど音出しとは「呼び込み」のようなものなのだなということに気が付いた。たしかに音を出して最終調整を図るという目的があってのことなのだろうが、わずか10分ほどの間に「こんなバンドですよーきてねー」というのをどれだけ伝えることができるか。いつもフェスに参戦したフォロワーさんが、セトリとは別に音出しの時の曲も上げてくれていて、一体どういうことなのだろうかなと思っていたが、なんとなく分かったような気がしたのだ。

四星球のステージはとにかく面白かった。名前はもちろん知っていたし、先日のサカムケちゃん卒業祭りや、徳島で開催された文化祭フェスの楽しげな様子をTLで眺めていたので、今回観られるのを楽しみにしていた。
泣けるコミックバンドというキャッチコピーはハードルが高いのだろうか、どうなのだろうかと思っていたけれど、とにかくしっかりと練りに練ったステージで初めて観るとか曲を知らないとか、そういうことが関係なく楽しめる。
やっていることはいい意味でチープなんだけど、内向きではなくちゃんとこちらを向いていて、観客の興味を引き付けていくのが抜群に上手い。
全体を巻き込んで「楽しい」気持ちにさせる事に全力投球しているからこそ、ともすれば寒くなってしまうギリギリの演出も綺麗にプラスに持っていくところが、うわー力のあるバンドだなと思った。
見た目は桜島大根だったし、途中からは白タイツの白塗りだったというのに、心意気は男前。シートスペースにいる人たちや、後方から遠巻きに見ている人たちをそっと眺めるとみんな楽しそうにしていた。わたしはアウェイに強いバンドこそ、ライブバンドだと思っている。

四星球が終わるとそろそろわたしは薩摩ステージの方へと移動し、打首さんの出番のために場所確保へと動き始めた。モッシュもダイブも一切禁止となっていたはずだったが、普通にどちらも起こっていたので、ステージスペースに息子を連れて行くのは難しいと判断し、夫に託して一人ずんずんと前の方へ進んでいく。

BiSH終わりで見事に最前の柵を掴んだ。随分と上手側の端っこになってしまったが、ここならきっとダイバーさんたちの邪魔にはならないし、ステージがよく見える。
いつもは下手を目指すところを、成行き的な感じで上手に来たが、上手もなかなか楽しそうな気配がする。
サカムケちゃんが卒業する前に来たかったな、とそんな感慨に浸りながらも、隣の大隅ステージの音を聴きつつ打首さんのセッティング模様を眺めていた。

薩摩と大隅、Ⅴ字に設営された二つのステージの間に、大きなモニタが君臨している。ここにステージの模様が映し出されることで、後ろにいてもライブの様子を見ることができるのだが、わたしはてっきりここにVJ映像が映るもんだと思い込んでいたが違っていた。そりゃそうだ。後ろの人だってステージ上の人たちが観たいもんね。
しかしながらやはり野外の広い空間では、会長手作りのLEDディスプレイ(通称クララ)は小ぢんまりとして見える。後ろまで届くかなーと思っているうちにも、出来上がっていくVJ卓。
数日前の台風の影響か、10月という季節が少し信じられないほど暑かったこの日、精密機械であるPC等はどうやら熱がこもりすぎているのか、それとも太陽の光がまぶしくて画面が見えなくなってしまうのか、何らかのカバーを用意しようとスタッフさんたちはいそいそとしていた。
たしかに暑い。夏の鹿児島とは比にならないが、10月という季節柄、もしや上着が必要なのではないかと思っていたがとんでもないことだった。昼も近づき日差しが強くなってくる。季節や天気だけはどうしたって読み切れないものだが、とにかくいい天気だ。
晴れバンドだと自称する打首さんも、よもや雨に降られるステージというのも今年は多かったようだ。わたしは参戦回数が少ないのだが、天候には恵まれているので、もはや晴れ女なのはわたしだということにしておく。

となりのステージが終わり、打首さんの音出しタイムが始まった。セッティングをしながらというのは変わらないが、会長がさっそく客席に向かって話しかける。時刻は12時ちょうど。
「お腹が空いてきているであろうみなさんに、ちょっとした小腹を満たすプレゼントを」といういつもながらの発言を合図に、スタッフの方々が大きなビニール袋を抱えてぞろぞろと出てきた。

いつもは曲と曲の合間で配られる「うまい棒」。会長から「小学校の時のプリントを配る要領で」という説明が入るのだが、今日も入っていたのだが、しっかり注目を集めてからのMCタイムで伝えるのとは違っていたからか、それとも初めてのお客さんが多かったからなのか、その声が届く前にみんなうまい棒に気を取られてしまったのか、結果「うまい棒飛び交うフロア」になってしまったのは残念だった。

横に回してくれないと端っこまで届かない。わたしのところに来ないまま後ろに行ってしまいそうだったうまい棒に手を伸ばしていたら、優しい男性が数本取って渡して下さったおかげで、上手端っこの前の人々にもうまい棒がいきわたりました。ありがとうございます。

本日のうまい棒は「めんたい味」。久々にオーソドックスなの来た!と思っていたら、本当の音出しタイムが始まった。
わたしがいつもライブ前に聴きたい聴きたいという【ヤキトリズム】この曲ホント大好きなんだなー。音出しでやるということは本番ではやらないということなのだけど、そしてせせーり、せっせーりのコール終わりまでしか聴けなかったけど、Bメロのところのギターが好きなので聴けて満足。

そして次は【カモン諭吉】これを聴くのは武道館以来だ。音を調整しながらなのでカッチリとした演奏ではないのだけど、ほらそこはリハ好き、セッティング好きのわたしにとってはもはやご褒美。
綺麗に音を出す本番とは違って、ひとつ音が抜けてたりすると、あー本当に演奏してるんだなというのがよく分かるので逆に嬉しいとか思ってしまうのです。
少し前にアシュラシンドロームと絶叫する60度が、台風で中止になったライブの代わりにスタジオから生配信をやっていたけれど、その時もセッティングから配信されていたのがすごく良かった。
わたしは楽器もバンドもやったことがないけれど、20代の遊び場といえばアマチュアバンドマンの練習スタジオだったりしたので、ああいう裏側みたいな空気が懐かしくて好きなのだ。

「本番もよろしくお願いします」と言って音出しは終わり、打首さんたちがはけていった。ステージ袖は下手にあるということで、逆に位置するわたしの場所からは黒い幕の向こう側にある袖がよく見える。
いよいよ始まる、という時にステージ袖で気合を入れる打首さんたちの声が聞えた。

12時10分、中央のモニタに打首さんの名前が表示されて、いつものSEが流れる。バックドロップシンデレラの「池袋のマニア化を防がNIGHT」。
お客さんを煽りながら出てきて、会長がいつものように獄バスタオルをバサッと広げる。これを見ると物販でバスタオルが買いたくなるのだが、毎回その値段に恐れおののいてしまって未だ買えていない一品だ。でもカッコいいんだよな。

端のわたしはぐっと押されるような圧もなく、さして不自由もない視界良好な状態で始まったステージ1曲目は予想通りのこの曲【デリシャスティック】
すでに配り終えられていたうまい棒は、今日は一体どのあたりまで届いているのだろうか。本当に小腹を空かせて食べてしまった人はいなかっただろうかなどと、少し心配になりつつも美味しいサイリウムをしっかりと振りながらコールする。
わたしの近くにいた獄Tの女性たちは音出しの時からステージに釘づけで、会長の声をカッコいいと褒めていた。わたしもそう思います!!と心の中で同意していたことは言うまでもない。

鹿児島は魚が美味いと聞いている。そんなMCならもう次にくる曲は決まってる。【島国DNA】だ。この曲はイントロが本当に大好き。ズクズクというギターの音が気持ちいい。
おもむろにステージから現れたスタッフが、まぐろたんを客席に投げ入れる。わたしの目の前に飛んできて、久しぶりに触れたまぐろたん。一生懸命後ろに後ろにと泳がせながら、つい目を奪われるそのフォルムが本当に可愛い。
まぐろ、まぐろ、まぐろのさしみの三三七拍子も気持ちいい。後ろまでしっかりとお客さんで埋まっていたのだけど、思ったより前の方をウロウロとしていたまぐろたん。何度かセキュリティスタッフに助けられて、再び人の海へと戻って行った。
「きますよ、きますよ。鹿児島名物のキビナゴももう少しできますからね」と会長の予告通り、鹿児島といえば、のキビナゴ。しっかりと一緒に歌いました。
実は鹿児島には枕崎のカツオという選択肢もあったのだけど、やはりカツオといえば土佐なんだろうなと思いつつ。

そして鹿児島は魚だけじゃない。鹿児島黒豚、鹿児島黒牛…と会長が唱え始める。じつは薩摩地鶏なんてものもあるのだよと思っていたら、【ニクタベイコウ】。まぐろたんが回収されることなく、新たに投入される肉。まんが肉。なぜか肉はわたしの位置からは遠くて、まんが肉に触れる事は出来なかったが、この曲は「そうしよう!」のレスポンスが本当に気持ちいいんだ。
そしてこの歌のAメロはJunkoさんのベースと動きが好きで、つい視線を送ってしまうのだ。今日も長い髪がうねるように動いていて、本当にステージ映えするよなーと見惚れてしまう。
わたしは、WODなど参加はしないのだけど、傍から見るのは好きなので起きるかなーと思っていたけれど、どうやら今日は起こらなかった模様。さすがに東京から遠く離れた場所でのフェスだけあって、集まっているお客さんが打首さんのライブに行き慣れている人たちばかりというわけではないのだろう。うまい棒が飛び交う客席ならば致しかたないのかもしれない。

「昼もしくは夕方の場合、セットリストに偏りがでます」とメシテロセトリについて話す会長。魚、肉、ときたら何がくるのか。ドーナツか!それともモツ鍋か!レンジでチンするたこ焼きか!と確率の低い曲ばかりを思い浮かべてみたが、やはりここは定番の【私を二郎に連れてって】
二郎、これも武道館ぶりに聴く曲だった。あす香さんの綺麗な歌声がドラムの音と共に会場に響き渡る。この曲はMVを観るたびに、あんな細っこい兄ちゃんに残りの分は食べてね、というのは酷ではないかと不安が募る。二郎は未経験なのだが、この曲のせいで「ニンニクアブラヤサイマシマシ」とうっかり言ってしまいそうで怖い。
同じ最前でもセンターのあたりは後ろから飛んでくるダイバーさんたちでごった返していた。セキュリティとして立っているスタッフもあまり慣れていないようで、落とさないようにと必死の形相で対応している。
会場のモニタにステージの様子を映し出すカメラと、どうやら後日テレビ放送される用のカメラがいるため、どちらがどちらか分からないが、最前ってのはいろんなものが見えるなーといつも思うのだ。

「魚、肉、麺類ときたら…」と会長が言ったので、まさかもう終わり!と思っていたら「お菓子もあるぞ」と。1曲目もお菓子だったぞ、と思ったのは内緒だけれども、こちらも定番【きのこたけのこ戦争】

きのこ軍とたけのこ軍の説明を始めた会長の言葉を聞きながら、純然たるきのこ派であるわたしが、いつもスパイとしてたけのこ軍に身を置いているわたしが、ついにきのこ軍の本部に混ざりこむことが出来た喜びよ。
そしてさきほどの四星球のステージで「WODって知ってますかー」から始まって、みんなで『WODを真ん中で仕切る人』の動きをやったのだけど、きのこ軍、たけのこ軍、真ん中にいる人はその仕切る人をやってくれというお達しがきた。
四星球は真ん中で仕切る人しかやらせなかったというのに、ダイブもモッシュもダメだって運営側が言っているというのに、WODを煽っちゃうわけだから、いいのか大丈夫なのか、などと思ったりもした。

しかしやはりWODもある意味であうんの呼吸とでもいうべきか、しっかり割れてはいたけれど、会長の合図でぶつかり合うその勢いは思ったより落ち着いていた。もしかすると慣れてない人が混ざっていて、空気を読んだ配慮が施されていたのかもしれない。
わたしはそこまで激しいライブに慣れている方ではないので、戸惑い溢れる優しいライブも好きだよ。何よりも怪我だけは避けなければならないと思っているから。

まだあるかな、何が残っているかな。「あ、肉や魚はご飯と一緒に食べる派?そのままじゃなくてご飯といくのだな」ってそれではご唱和くださいと続く、ついにきてしまったこの曲【日本の米は世界一】
いつも楽しい時間はあっという間で、右手を高くあげて叫ぶのだ。30分なんて長い人生の誤差でしかない程度の長さだというのに、ライブの30分は本当に幸せな時間だと思う。
たくさんのメシテロ曲がある中で、代表曲がお米の歌だというのが本当に打首さんらしいなと。もちろん『代表曲を作ろう』と思って制作するわけではないので結果論でしかないが、合わせるものを変えながらもオーソドックスに日常にあり続ける米という食材を主役としたこの歌がわたしはとても好きだ。好きな食べ物を問われた時に1番だ2番だとかそういうものではなくて、いつも当たり前に存在している。
生活に密着しているものへ光を当てて、ラウドな音に乗せて歌にする、それが打首さんの曲なのだと思う。

 

打首さんのステージが終わり、わたしはステージエリアから家族が待つ場所へと戻った。そこは車椅子の人向けの少し高く設置されたエリアのすぐ横で、PA席から近いということもあって外音が一番よく響くのではないかと陣取っていた場所だった。
そして車椅子エリアにはどうやら少し高齢の男女お二人がいたようで、全身獄グッズに身を包んだ打首さんファンだったという話を聞いて嬉しくなった。ステージに出てきた姿を見て「会長だー」と言っていたらしく、なんとも微笑ましい。

夫に感想を聞くと、どうやら打首さんの外音はとても小さくて、あまりよく聞こえなかったと。ステージエリアではそんなことは無かったので驚いたが、何かトラブルがあったのではないかと心配していたのだそうだ。
野外フェスはその日のために設営されたステージなので、こうしたトラブルは避けられないという側面もある。

ここ2回ほど家族で打首さんを観に行って思うのが、終わった後に「音」や「演奏」について、わたしはなんら語る口を持たないということだ。こうして長々と感想をつづっていても、楽曲のことについて書かれた部分などほとんどない。
ではライブに行ってわたしが聴いているものは何なのか。わたしが観ているものは何なのだろうか。
プレイヤーだけが音楽を楽しめるのかと聞かれれば、それは違うと思う。世の中のほとんどがリスナーであるからだ。楽しみ方は人それぞれ。その部分においては納得している。
それならばリスナーとして自身が音楽好きなのかというと、それも少し分からなくなっている。どんなジャンルでも色んな音楽を楽しみたいという人たちは、きっとフェスとも相性が良いのではないかなと思うからだ。定額聴き放題のレコメンド機能を元に新しい音を求めてさまよえるポジティブさを、音楽に対して持つことができない自分の保守的なスタンスが少しさみしく思えるのだった。

飲食ブースに戻り、メシテロでやられた胃にようやく潤いを与えながら、緩やかな時間の流れを見つめていた。

打首さんのステージはやっぱり楽しくて大好きだった。好きを語るのにそれらしい理由など必要ないのだ。まだ出会っていない音楽と本当に出会う瞬間があるのだとするならば、すべてはタイミングなのだと思う。
そのタイミングに何らかの法則性を見いだせないわたしは、わたしをペルソナにしたマーケティングは難しいだろうなと思わざるを得ない。

その昔、レンタルしたCDアルバムのお気に入りの曲だけをずっと聴きたくて、60分テープにたった1曲だけを詰め込めるだけ詰め込んで作ったことがあった。
カセットテープからMDになって、mp3になって、IPodの初期型を購入した頃、驚くほどたくさんの曲を持ち歩けるようになった。そして今や配信がメインとなりつつあり、聴きたい時にすぐに聴ける音楽の数が爆発的に増えても、結局わたしはお気に入りの曲を、リピート機能をふんだんに使って聴いてしまう。
音楽との付き合い方は時代と共に変化しても、末端にいるわたしの聴き方においてはちっとも変っていないのだ。
そんなわたしは月額いくらの聴き放題とは非常に相性が悪い。レコメンド機能の精度がどれほど高くなっているのだとしても、わたしはその恩恵を受けることはない。毎月定額で世の中にあるたくさんの曲を聴く事ができるというのは本当に素晴らしいシステムだと思うのだが、残念ながら受け手としてのわたしがアップデートされなければ上手く使うことが出来ないのであった。

前回の打首筋少という好きと好きが同じ日に観られる夢のような対バンライブを、わたしはハンバーグと焼肉定食白米大盛りと表現した。そしてその対照的なところにあるのが、音楽フェスだ。
わたしにとってフェスはビュッフェのようなもので、食事ならば「あれも」「これも」と少しずつお皿に取り楽しむことができるというのに、こと音楽となると好きなものばかりを手繰り寄せてお腹いっぱい食べてしまって、他の物を口にする機会を失ってしまう。

NO MUSIC NO LIFE、音楽がなければ生きていけないのだと、世の音楽好きの心を鷲掴みにしたキャッチコピー。
もしかするとわたしは音楽そのものが好きなわけではないのかもしれない。でも、ランチビュッフェで彩りのためにサラダを取ったり、初めて見た料理に挑戦したりしなくても、好きなものばかりを皿に盛って作った自分なりのスペシャル定食ばかりを食べていても、食べる事が好きだと言っていい。

 

その日、桜島はほんのり噴火をしていた。細めの噴煙が上がっている姿を何度か確認したが、大きな噴火が見られなくて残念だ。
音が響きモクモクと大きな噴煙が上がる姿は、地元民が慣れている程度の安全なものでも、県外から来た人たちにとってはビックリする以外の何物でもないだろう。

遠くからまた別のバンドが音出しをして、ステージが始まって、と繰り返されている。
わたしの知らない音楽が誰かの心を掴んでいく瞬間があるのだと、その尊さだけは知っている。

次はきっとライブハウスで。

この肉、わたしも食べたかった…。