箱日記

ライブに行った感想を細々とつづっています。

2020年7月 打首獄門同好会VRライブハウス Vol.1~3

新型コロナウイルスの影響によって、『ライブの当たり前』が変わってしまった世界。

2月29日に無観客配信ライブにいち早く取り組んだ打首さんが、周りのバンドが配信ライブをやったり、オンラインフェスが開催されたりと工夫している中、沈黙を破り満を持して発表したのが、360度カメラを使って自由にアングルが変えられる動画配信、そうVRライブハウスだ。

 


…非常にカッコいい話だというのに、なんだかカッコ悪い書き出しになってしまったことを反省しつつ、遅ればせながらようやくVRライブハウスを経験したその興奮そのままに感想を書いてみたいと思う。

VRライブハウスと銘打たれた映像は毎週金曜日に新しいものがアップされる。時間は19時を目途に公式Twitterにて我らが大澤敦史からお知らせがあるので、素早く購入してすぐに観たいという人は、Twitterの通知設定を使って会長のツイートの通知をONにしておくといいだろう。

使っている配信サービスは『Vimeo』という海外のサービスだ。YoutubeVR映像に対応しているが、Youtubeは動画コンテンツを売ってはならないという決まりがあるらしいので(先日Admの配信でライブキッズあるあるくんが言っていた)なかなかマイナーなサービスだが、そちらを使って購入、再生することになる。

アカウント取得や支払いについての詳しい説明は、どこの企業が作った説明動画なんだ?と思うくらいに、非常に丁寧で分かりやすい説明動画がまとまっているので、これをちゃんと見ればきっと不慣れな人もなんとかなる。

 

かゆいところに手が届くとはまさにこの事だ。会長はこういうことが好きすぎるんだよなーと思うと同時に、本当に仕事ができる男だと思う。素晴らしすぎる。

Vimeoを使ってみた感想としては、つまづきやすい部分が多々ある、かな。わたしはあまり苦手という認識はないので、そのぶん普段は細かく説明を見ないでもあまり困ることが無いのだけれど、Vimeoは思った動きをしてくれなくて、んん?と首をひねることも多々。まあそこはさすが海外のサービスといったところ。

ここからはプラットフォームではなく、わたしの設備の問題。
わたしのスマホASUSというメーカーのもので、格安simをぶっこんで使っている。おサイフケータイが付いていないとか、カスタマーセンターの担当が外国のかたなので電話で問い合わせても上手くこちらの要望が伝わらないなど、普段使うには特に困っていないが、時々足りない時もあるといった絶妙なスマホ環境なのであった。

今回に至ってはそのたまにしか発生しない困りごとに当てはまってしまったようで、比較的新しい機種にも関わらず、ジャイロセンサーが付いていないということが判明した。

ちなみにジャイロセンサーとは

 ジャイロセンサー(角速度センサー)とは、回転角速度の測定を実現する慣性センサーの一種です。角速度とは、ある物体の角度が単位時間当たりどれだけ変化しているか、つまり物体が回転している速度を表す物理量です。

【いまさら聞けないジャイロセンサー入門】 https://ednjapan.com/edn/articles/1406/09/news014.html#utm_term=share_sp

難しいことは置いといても、今のスマホにはほとんど標準装備されていると思う。とにかくこれが付いてないと画面を動かしても動画が連動しないので、VR動画視聴には必須も必須。

されどしまった…端末購入の際にカメラの使いやすさや容量、バッテリーの持ちなどは考慮しても、ジャイロセンサーの有無については考えていなかった。このままではせっかくのVRも楽しさが半減どころの騒ぎではない。
新しい端末を購入するか迷ったのだが、ちょうど妹が使っていないiPhone5sという古い端末にはジャイロセンサーが付いているという情報を得て、譲ってもらうことに成功した。

あとはVRゴーグルだが、どうせなら価格と機能を熟考してより良いものを手に入れたい。せっかくの映像を余すところなく堪能したい。その気持ちからものすごく悩みに悩んでしまって、iPhoneが届いてから注文までに1週間もかかってしまった。
VRライブハウスが発表されて、お試し映像が公開されてからiPhoneが届くまでのタイムラグ、そしてVRゴーグルを注文するまでの期間、そしてゴーグル到着までの日数を経て、わたしはようやくVRライブハウスを体験することができたのだった。

動画だけなら自分のスマホでも観ることは可能だ。画面を指でスライドすれば風乃海くんの姿だってちゃんと観ることができる。

そしてiPhoneが届いてからは指でスライドしなくても、端末を動かすことで360度の映像を楽しむことも可能だった。
しかしながら、早く観たい、今すぐに観たいと、いつもなら準備が整っていなくても我慢ができないタイプのわたしなのだが、今回は本当に初めてのことなので『初めての驚き』という、たった1度しかない瞬間を大切にしたかった。

せっかちな性格で、いつも入念な準備をおろそかにしがちなわたしが、今回ばかりは購入が完了しているかどうかの確認でわずかに再生する程度で、一切フライングすることなく我慢していたのだった。

結局前置きが長くなってしまったが、ようやく届いたのがこれだ。

悩んで悩んで最終的には見た目で選んだ。だって予算価格帯(2000円〜3000円)は機能に大差がないんだもん。
注意すべきはお手持ちのスマホのサイズ、ヘッドホン連携型かどうか、Bluetoothリモコンの有無、の3点くらいで後2点については何とかなる。あとは販売側がちゃんとした通販業者なのかくらいで、箱が潰れずスピーディに届けばOKかな、わたしは。

さあ映像を観よう、ようやく観られる。わたしはVRを初体験して、これ↓↓になるんだ!とワクワクしていた。

38歳児の可愛さよ…。さすが会長に操られている青木亞一人は良い仕事をしてくれる。これを見たらゴーグルが絶対欲しくなってしまう。広報としての役割を果たしすぎてるではないか。最高。


さて、我がゴーグルには安価ながらも一応VRリモコンなるものが同梱されていたものの、IOSとは相性があまり良くないらしく、ボリュームくらいしか操作できない。再生がリモコンでできれば本当に楽だったが仕方がない。限りあるもので最大のパフォーマンスを出すしかないのだ。
ゴーグルと画面に出てきた線を合わせて…再生したままだから早く閉じてゴーグルをつけないとどんどん先に進んでいってしまう。
イヤフォンは有線ピヤホンにした。なんだ良いラインナップじゃないか。


まず再生した第一回目は『スターターパック』だ。いわゆるスタンダードなパックで、セトリは以下の通り。

 

新型コロナウイルスが憎い」(←これって曲名でいいんだっけ?)が流れている間に何とか装着する。

1曲目は【こどものねごと】
最近のライブはずっとこの曲が1曲目だった。15周年の対バンツアー、福岡も大分も、熊本も佐賀も。ワンマンツアー福岡も。合間に行ったRSRはフェス恒例のデリシャスティック始まりだったが、ショートバージョンで2曲目がこの曲だった。


発表からしばらく経って、販売からも3週間以上が過ぎているから、その間に購入用の動画をアップしたり、VRライブハウスの目的をツイートしたり、海外サイトの登録や有料コンテンツ購入へのハードルの高さを何とかしようという、会長の努力の様子を目の当たりにしていた。

それは確かに、このコロナ禍のなかで収入源であるライブを奪われてしまっていることに対する策ではあるのだけど、そしてツイートにあったように飲食とライブハウス経営という厳しい業界を生業としている所属事務所の現状を打破したいという想いもあるのだろうと思う。しかしただそれだけではなく、ぜひ観てほしい、楽しんでもらいたいという純粋な気もちもあるのではないかと思うのだ。

わたしはVRを観るまでは「すごいんだろうな」という、どちらかというと文明の進化みたいなものを感じることができるのだろうと期待していた。しかしこの曲が始まって感じたのは文明の利器なんてものじゃなかった。そこにあったのはVRという便利なテクノロジーというよりも、ただ圧倒的に『ライブ』だったのだ。

今日までコロナの影響でたくさんライブが中止になって、代わりに配信ライブがたくさん始まった。色々観て、普段は遠くて観られないようなライブも観ることができる楽しさを知った。メリットはたくさんある。
しかし全然違うのだ。もっと「わー近い」とか「こんな距離でガン見しちゃうなんてー」みたいなキャッキャしちゃう感じになるのかと思っていたのに、こんなにシンプルに「ライブ」を観られたことに、そしてこれを届けるために一生懸命だったんだ…という事実に気がついてしまったところで、もうダメだった。

とにかく演奏が始まった瞬間から泣けて泣けて仕方なかった。
ライブ自粛が終わって、最初に行ったライブは絶対泣いちゃうよ、とかツイートしつつも、実際は楽しさが勝ってしまって笑ってるんだろうなと思っていた。わたしは何事もわたしの感情でしか涙が出ないので、本当に涙腺がカッチカチなのだ。
美しい旋律に涙を流す繊細さも、歌声に載せられた感情を察知して涙する感性も、わたしにはない。
だから慣れていない。
『泣く』というのは怖い。だって感情に身体のコントロールが巻き込まれていくなんて、怖すぎる。

きっと五感のうちの、いくつかをそろえることで高度な錯覚を引き出しているのだろう。
だが冷静に考えてみてほしい。リビングに部屋着でゴーグルを着けて号泣している姿は、もはや漫画である。まさかの事態に1番驚いたのは、他の誰でもないわたしに他ならない。

でも本当にライブハウスにいる感覚が突然目の前に降ってきたみたいだったんだ。


会長は一度もカメラ目線にならない。これがものすごくライブっぽい。Mステみたいにカメラ目線で歌うと、まるで目が合ったみたいな感覚になるので、それはそれでとても良いのだけど、実際のライブで目が合うというのは錯覚でしかない。

対照的にJunkoさんは普段のライブでも客席に向かってのパフォーマンスが多いので、今回のVRライブハウスでもカメラ目線がたくさんあって、これはちょっとドキドキしちゃったな。

今回、3パックをいっき見するというとても贅沢な楽しみ方をしたわたしだが、感想も書きたいことを書きたいようにバラバラに書いていくという不親切設計。どのパックにもそれぞれの良さがあるのでつまみ食いするより全部買って全部観るのが良いと思う。


『タンパク質パック』のセトリはこんな感じ。

 

そしてこの回は最前どセンターが画面の前のわたしたちの立ち位置だ。足元を見るとステージの端っこが見える。下を見ているのに自分の足はない。不思議な気もちになる。

【SAWAYAKA】が聴けたのは最高すぎた。
この曲大好きなんだけど、静岡でのライブかもしくはワンマンライブにワンチャンかけるとかじゃないと絶対に聴けないと思っていたので、まさかこのような形で聴けるなんて。
タンパク質パック、そう言われてみればたしかにハンバーグはタンパク質パックに入ってくる、間違いない。

全体的にズクズクしてるこの曲のギターがカッコよすぎませんかね。
『オニオンソースとデミグラソースの、どちらをつけても高きポテンシャル』
のとことか最高。
歌詞が完全に大澤節だし、1番はまだお店と自分のことを語ってる歌詞なのに2番は完全にハンバーグについての歌なの最高だよ、大好き。
一緒にご飯食べに行ったら完全に面倒くさいやつじゃないか、最高。

映像配信ならではの演出もある。【島国DNA】では頭上をマグロの大群が泳ぎながら横切っていく。わたしはお魚の顔面が苦手なので、見えているのがお腹で安心する。
「わー水族館みたい」というあの無邪気な発言を口に出してみたくなる。

『日々の気持ちパック』のセトリはこちら。

【音楽依存症生活】
この曲ね、本当に好き。熱き想いはもうさんざん語ったから割愛するけれど、これを『日々の気持ちパック』という名前でパッケージングする、その感覚が好きなんだよ。「ライブハウスへようこそ」とライブバージョンだけのその歌詞がずしりと心の真ん中に響く。

基本的にはステージの上でメンバー+風乃海くんに挟まれているという位置取りなわけだけれど、【カモン諭吉】の時のコールアンドレスポンスは非常に居心地が悪くて笑ってしまう。ここにいるの申し訳ないっす!!!!!と走り出してしまいそうで、体を妙な感じにひねってよけようとしてしまった。

お札が降ってくる。ちゃんと降ってくる。ものが飛んでくると気がついてしまう。視線を向けてピントを合わせるのは難しいのだと。
一方で、わたしは目がものすごく悪くて(0.04くらい)矯正視力じゃないと何一つ見えないのだけど、VRは裸眼でいけるのでとても楽だ。
そしてちょっとくらいセッティングがずれていても、勝手に(勝手にというわけでもないのだろうけど)修正してしまう。見えたり見えなかったり、目ってすごい。まさに人体の不思議だ。

【フローネル】
こんなノーマルなフローネルはライブではあまりないかもしれない。
そのぶんJunkoさんどうぞーのいつもの感じが際立って良い。あす香さんも会長も笑っちゃうの良い。

そして、360度視界を動かすことで、あたかも見たいものが見られるように感じているけれど、実際は見せたいものを四方八方から映像に起こしているもの、というのが正解に近い気がする。
見慣れたフテネコが大きく映し出され、演者の誰を見てもピントが合わないという映像はやはり違和感が生まれる。
視界がコントロールされているというのは不思議な気もちになるものだ。


3つのパックをいっきに観て気が付いたことは、ライブハウスよりも音が鮮明であるということ。ということはわたしはライブでたくさんの音を聴き逃しているのだな、という知っていたけれど改めて感じる事実。

VRライブではなく、『VRライブハウス』と銘打っているだけあって、ただグルグルと色んな角度から見られることがメインではなく、まるでライブハウスにいるみたいな…というところがまず目指すところだったのではないだろうか…と考えてみる。
スターターパックは選曲も含めて非常にオーソドックスな仕上がりとなっているが、レスポンスが早いというネットの良さを活用して、反応を見ながら少しずつ色々な要素を入れる…とまではいかないが、方向性が需要と大きくずれていないかなどのチェックはしているのではないか。コンセプトがしっかりしていないとブレてしまう可能性があるのでなかなか難しいのだが、比較的会長が得意とするところだと思う。
毎週更新の良さは、同じスケジューリングで過ごしているかのように錯覚できるところだ。実際は週間連載の漫画家がしっかりとストックを持っているように、一つ一つのコンセプトと全体のバランスを整えてから取り出しているはずなのだが、作りたてほやほやのものを即購入しているような産地直送感が良い。


VRライブハウス。配信のアーカイブとは違って、有効期限がないというのもいい。コンテンツ購入は所有するという喜びを満たしてくれる。その中に「体験する」を混ぜ込んでいるわけだから、ライブバンドの良さも活きるというものだ。

打首さんの姿形は、自粛期間中も目にしていて、例えば少し前のLUNA SEA主催のフェスではアコースティックでの演奏だってちゃんと見た。
他のバンドの配信ライブを観たときだってどれもみんな一生懸命で楽しくて、観れば観るほど「ああ早くライブに行きたい」としみじみ思った。
でも、違うのだ。
たしかに完璧じゃない。わたしはリビングにいてゴーグルを付けていて、なんならうっすらiPhoneだって見切れてる。
だけど違うのだ。
もっと感覚に近い場所にあるものが、記憶をたぐり寄せてくる。頭の中にあるものを再生されているみたいな驚きに近い感情が生まれる。

筋肉少女帯の歌に『境目のない世界』というものがある。”ふたつでひとつのもの”をいくつかくり返し歌い、『アナタとアタシが金属であったなら、ドロリひとつ溶けあえたから』と歌う歌だ。
その”ふたつでひとつのもの”の中に『子ども亡くした老人が、少女人形をあやすみたく』という歌詞があるのだが、読んで字のごとく、そこにないものの想い出を投影して、代わりを愛でている現象だが、その幸せに温かさを覚えるか、残酷さを感じるかは人それぞれだと思う。
このままもっと高精度になればなるほどに、ライブステージとVRライブの境目が消えていくのか、それともくっきりと見えるようになってしまうのかは分からない。

ただ、今は単純に、突然ライブハウスを奪われた人たちが見たいものはこれなんだと、確信を持って取り出してくれる会長の感覚が嬉しい。
いつだって客のほうに心を寄せてくれる。俺たちについて来いとは言わない。そんなぐいぐいと引っ張っていくようなタイプじゃない。何もないところから工夫をこらしてここまで来たバンドだ。いつだって足りないものだらけでも、一緒に楽しむための方法をたくさん考えてくれるのだ。
それはまさにライブハウスで育ってきたバンドであること、そして何よりもライブハウスが好きなバンドマンであることの証明に他ならない。


『次回へつづく』の文字が動画のラストに現れる。VRライブハウスは始まったばかりだ。

購入ページはこちら。
販売価格500円とか激安も激安すぎて申し訳なくなるくらいだ。

日常生活は必要以上に輝かなくとも、こうして色づいていくのだろう。