箱日記

ライブに行った感想を細々とつづっています。

2019年7月28日 アシュラシンドローム 福岡Queblick

だから、ライブに行こう。

 

わたしの家から福岡市内までは電車で40分。新幹線なら20分。
しかしライブハウスがある場所までは乗り換えなしではたどり着けず、ドアtoドアだと正味1時間の距離にある。平日ならば時間を惜しんで新幹線で向かうところだが、本日は日曜日。わたしはバンドTシャツやラババン、タオルなどの必要品をリュックに詰めると、昼前に息子と共に家を出た。

 


遠征の場合は朝一番に、仕事終わりの平日は定時ダッシュで新幹線。そして休日の場合は昼過ぎに自宅を出てライブハウスへと向かう。
遠征ルールと銘打って、駅のコンビニでお酒を購入した。ライブ=遠征という図式になる場合が多く、何ら気にせず買ってしまったが、よく考えれば昼間の普通電車でお酒を飲む子連れは中々パンチがきいた存在だと言えよう。
ただ無駄に緊張する自分をたしなめるにはアルコールくらいは必要だ。わたしが緊張する必要など欠片もないのだが、やっぱり「今日はライブだ」という時のそわそわと落ち着かない気持ちは「緊張」に近いように思う。

博多で乗り換えて最寄りの地下鉄の駅から真っ直ぐ数メートル歩くと、本日の箱『福岡Queblick』はある。ビルの地下に入口があるのだが、道路側から見ると看板などは存在しておらず、ただ立て看板が地下の入り口にそっと立てかけられている。
一度オープンギリギリに来たことがあり、その時はすでに入場整列が始まっていた。その記憶がなければまだ誰もいないこの時間帯なら気づかずに通り過ぎてしまうだろう。
看板には本日のイベント名、そして出演バンドの名前が丁寧に描かれている。その前で写真を撮り、本日の場所を確認すると一気にやることがなくなってしまった。

とにかく暑い。梅雨が明けた九州地方は、馬鹿みたいな夏が訪れていて、空からは容赦なく紫外線が熱を伴い降り注いでくる。1カ月前に打首さんのライブで大分に行ったときはあいにくの雨となり「晴れるか雨かで全然過ごしやすさが違いますよねえ」などといった会話を交わしていた記憶があるが、文句なく晴れた空の下で心の中も言葉としても、出てくるのは夏への恨み言しかない。勝手なものである。

まだ誰の姿も見当たらず、とりあえずは向かいのコーヒーショップに避難して時を過ごすことにしたのだが、ただじっと座って身体を休めるということに対する情熱がない息子は退屈そうだ。
本当はもう少し涼んでいたかったが、だいぶ時間も潰せたしと外に出たところ、先ほどまでは通行人しかいなかった箱前に、数名パラパラとライブ目的の人たちが確認できた。
ライブハウスに集う人々はお目当てのバンドTシャツを着ている人が多いので、非常に分かりやすい。
信号待ちをしながら辺りを見回すと、遠くから黒地に緑で文字が描かれたTシャツを着た男性が歩いている。
わたしが来ていたアシュラTも黒地で緑の文字がある。少し違うデザインだったが、黒×緑は定番カラーというイメージもあり、「あ、あの人もたぶんライブだろうな」とそんなことを思った。
ライブハウス前の道路は九州イチの繁華街である天神へ続く道路であるから、横切るための信号は赤のまましばらく時間を要する。先ほどの男性も信号待ちをしている様子が目に入ったので、「お、やっぱりライブかー」と思ってふと目をやると、なんとも見覚えがありすぎるその姿にわたしの動きが止まった。

「あ、あ、亞一人くん…じゃん」小さくつぶやいて、息子にもそれを伝える。息子も驚いてそちらに目をやり、突然の出来事に準備が出来ていない心臓が一気にその動きを速めた。
なんかこんなこと前にもあったぞ、とわたしは思う。去年の4月に打首さんのライブで周南に行ったとき、昼ご飯を食べるために出てきた会長の姿を偶然見てしまったときと同じ状況だ。
あの時はどうしていいのか分からず、話しかけることもあえての無視もできずに、視界の端に留めたまま微妙な距離感で謎の時間を過ごしてしまったのだ。今思い出しても気まずいし申し訳ない。

家に帰ってから夫にその話をすると、全身バンドグッズで身を固めている以上、その場にいるならただの通行人のふりはできない。かといって「俺のファンですよね?」などという日本語として非常にリスキーな発言を相手に求めるなどお前は何様だと。とすればイニシアチブを取るべく動く立場にあるのはこちらの方だが、いかんせんライブ中ではない半分プライベートの状況。そんなときの魔法の言葉をわたしは夫からレクチャーしてもらっていたのだ。
「今日楽しみにしてますー!」という当たり障りなく、はいはーいと簡単な受け答えができるような投げかけをするべし、と。
あったまいー!と感銘を受けたわたしは心に決めていた。いつかこんな場面に遭遇したら、そのようにしようと。
結果として声は出なかった。カオナシのように「あ、あ…」と単語ですらないただの音をぐっと飲みこみ、手を振った。数日前、サインや写真は状況的に難しいけどハイタッチならできると会長がツイートしていたが、そのもう少し距離のあるバージョンだ。
わちゃわちゃしていたので絶対に気づかれていただろうが、今気がついたかのようにこちらに視線を向けて、手を振りかえしてくれた。それだけでわたしのミラクルは始まっている。ささやかな出来事だけど本当に嬉しい。

あーなんてミラクル。そりゃあと少しで始まるライブの出演者なのだから、付近にいるのが当たり前なのだが、やはり道端で出会ってしまうことなど想定していなくて、少し心を整える時間をくださいと申し出たいところである。
横断歩道の右と左の端で手を振りあう姿を間に立っていた一般の通行人は、一体何の儀式なのかと思ったかもしれないがそのようなことに気を取られている場合ではない。

背中をそっと見送ってから心を落ち着かせる意味も含めて一度駅まで歩いた。荷物をロッカーに預けるべきか悩みつつ、クロークの方が都合がよいような気もして、結局トイレだけすませてまた箱の前へと戻ってくる。もうすっかり人が集まってきており、見知った顔もチラホラ。初めましての方にもご挨拶をして、コンビニの前で今日への期待を語り合う時間となった。
ふと箱入口を見ればあの金髪はナガさんだ!と。もう箱の前にみんな集まっているのだから良いのではないだろうかと、何を基準にしているのかは自分でも不明だが、息子のイヤマフにサインをお願いした。快く応じてくださって本当にありがたいことだ。しゃがんで書いてくださるのを上から眺める。いつもスマホの小さな画面で見ている姿がこんなに近く、そしてほとんど白だよねと思わせる色合いの頭髪を上から眺めるなんてぜいたく極まりないではないか。

わたしは対バンの予習をしないお客さんなので、いくつかのバンドが出演するライブではお目当て以外場合は顔を知らないということも多い。
ただおそらく顔を知っていてもあまり変わらなくて、それは周りを見ていてもそうなのだが、出演者の皆さんはスルーされたり突然緊張した人たちに意を決して話しかけられたりとその温度差についてどう思っているのだろうなどと考えてたりもする。

息子は対バンライブに行くことが多く、ワンマンライブは3月のアシュラ札幌しか経験したことがないのだが、箱の前で「今日って全部がアシュラのお客さんなの?」と聞きたくなった気持ちもよく分かる。対バンライブとワンマンライブはやはりオープン前の雰囲気も違って見えるのだろう。
本日の整理券番号は24と25。どちらが先でもさほど変わらないのに、自分が24番だとかたくなに譲らず、わたしは息子の後ろに並んだ。

入口でお目当てのバンド名を聞かれて「アシュラシンドロームです」と答える。ドリンク代を支払って、チケットをもらい中へと入った。
入ってすぐにドリンクカウンターがあり、扉の向こうがフロアだ。『挫・人間』と『くっつくパピー』の物販がドリンクカウンターの方に設置されており、ということはアシュラとセクマシはフロアかと思いながら、まずはクロークに荷物を預けた。
フロアの後方に小さく設置された物販にはすでにカメラマンのえみだむ氏の姿がある。
実は、ライジングサンお留守番組である息子が、メンバーとえみだむ氏にと数日前から奮闘して作成したお土産の品を持参していた。
全国津々浦々、色んなお客さんと接しているだろうに息子のことを覚えてくださっているのか、えみだむ氏が気さくな笑顔を向けてくれる。
小学校高学年となった息子は色んなことが恥ずかしくなってくるお年頃となったが、何とか手渡すことが出来た。カメラバッグに付けると言ってくれて後にツイートもしてくださった。息子はそれを見て非常に喜んでおりました。ありがとうございました。

さて、フロアのどのあたりから観るべきか。今日の入りはどの程度なのだろう。
セクマシのツアーなので順番としてはトリがセクマシなのは間違いない。『くっつくパピー』は地元のバンドなのでおそらく1番手だろう。そして『挫・人間』→『アシュラシンドローム』→『セックスマシーン!!』という予想は大きく外れることはないはずだ。

わたしの予想は当たっていた。
アシュラの出番前、センター寄りの上手にて最前柵を息子に握らせて、わたしはその後ろを陣取る。セッティングされていくステージを眺めながら、今日こそはライブ前配信動画をフロアで見てやると思っていたのに、残念ながら配信はなく、せっかくのチャンスだったというのに残念だ。

いつもフロアにいるときはオタオタしてしまってそんな暇はないのだが、本日は今日アシュラのライブが初めてという興奮気味の方がいて、自分が最初にアシュラのライブを観に行ったときのことを思い出してしまった。
わたしも一番最初の日は本当にドキドキしてしまって、最前の柵とステージのあまりの近さに「ひえぇえ」と変な声を出しながらセッティングを眺めていた。
今だってその気持ちは変わらないが、少しずつ免疫をつけて声が漏れないようにする術を身につけている。しかし近いのだ。小箱の良さはそこにある。セトリの紙をステージに貼る姿など配信動画やライブDVDはおろか、写真にだって残されていない。当たり前だ。
そこにいる。わたしはセッティングを見るのが大好きである。

一度はけてステージには誰もいなくなる。暗いステージには楽器が鎮座している。BGMはまだ流れ続けている。
フロアに流れていた音が一度大きくなり、そしてフェードアウトしていく。入れ違いに流れてくるのはパルプフィクション。久し振りにこのSEを聴いた。始まる。

メンバーが袖から現れる。カズマさん、ナオキさん、ナガさん、そして亞一人くん。
ステージの上でオンとオフを切り替えるようにストレッチをする姿を眺めるのが好きだ。いつもライブ前配信でその様子を眺めながら、ライブの始まりと共に終わってしまうことを寂しく思いながら見ている配信ではなく、今日、わたしはフロアにいる。ステージを前から眺めて、あの続きが観られる場所にいることを嬉しく思う。

1曲目は【ロールプレイング現実】


3月に発売されてからライブで聴くのは3回目だ。メンバーが忘れてしまったMVのダンスだってわたしはちゃんと覚えている。

以前の2回はどちらもワンマンライブだったので、キーボードのアツシさんがステージの上にいたが今回は同期音源で音が鳴る。
戦え!「何を!」人生を! これはわたしが大好きな筋少の曲とコール&レスポンスが全く同じなので非常に楽しいのだがいつも不思議な気持ちにさせられる。
ここのコール&レスポンスは初見だとわりと難しい。
♪作戦会議 『ガンガンいこうぜ』 戦え 『何を』 人生を♪ 『 』の部分がフロアの担当になるのだが、『何を』のところはその前と同じタイミングではないので、曲を知らない人だと追いつかないのである。
そして2回目は無いのだ。再び3回目でその出番がやってくるが、2回目は出番なしだったので、うっかり飛ばしてしまうことも多いだろう。難しいのだ。

とはいえそんな細かなことはどうだっていいのだ。だって楽しんだ方がいい。

2曲目は【絶対彼氏以上】


ナガさんの「手を上げろ―――!」が音源を聴いているときも脳内に響き渡るくらい、ライブで何度も聴いた大好きな曲。

いつも同じ曲を何度も聴くから、視線をどこにもっていくかがある程度決まってきていて、手を上げろーのところはナガさん見てるし、「お願い道しるべをちょうだい」という歌詞が大好きなので、そこに注目しているし、いつも何回聴いても楽しい。
しかし踊るのがちっとも上手くならないのが玉にキズ。

福岡久々帰ってきたぜと亞一人くん。前回はサーキットフェスONTQだった。あの時はツアーに福岡が含まれておらずで、でも絶対来るからってナガさんが言ってくれたので良い子で待っていたのだよ。
次の自分たちのツアーでは絶対福岡に来るっていう言葉を信じて、実際に少し前に発表されたツアーで10月にも福岡がちゃんと入っていた。すでにチケットは購入済みという準備万端状態だ。

次もここかなって話になって、次もここだよって誰かがフロアからそう言って、「次」があるのってすごくワクワクするね。

今日はセクマシのツアーなので、主催であるセクマシに少し触れて。森田さんのことをすげえボーカルだと思ってるって。普段は落ち着いた感じなのにステージに出てくるとああだからって。
セクマシはわたしは3回目なのだけど、1回目はアシュラでも打首さんでもなく、この数日前にライブに行った「ザ・マスミサイル」というバンドが対バンするからって広島で観たのが初めてだった。
わたしは20代半ばから出産までの間はマスミサイルを追いかけていて、まあ15年近く前の話だけれど、今と同じように遠征したりしていたわけで、いわゆる少し遅めの青春を象徴するバンドなのだ。

妊娠中も出産してからも、回数は多くないけれど何度か行ったライブの中のひとつに、セクマシのツアーでの対バンがあって、本当にライブハウスから離れていたし、今と同じくお目当て以外はよく分からない状態で何の前情報もなくライブを観る機会に恵まれた。
自分がわりと重たい客であることに自覚があるのだけど、その時のライブが本当に楽しくて、なんだこの人たちすごく面白いって思ったのを強烈に覚えている。

そんなセクマシがアシュラを福岡まで連れてきてくれたのだから感謝しかない。どこかで何かがつながっていて、きっとわたしはずっと、あと何年だってこうして生きていくのだと信じていたい。

聞き覚えのあるフレーズが奏でられる。決して音源には入っていないけれど、ライブでこういうつながり方をして曲に入っていく3曲目は【山の男は夢を見た】


この曲は音源で聴くよりもライブで聴く方が断然良い。ライブの時だけのイントロで盛り上げながら曲が始まり、みんな頭の上に三角を作って山を作る。
セクマシツアー福岡が頂を目指すのだ。

最近は頂of Deathなんてものも発生したりしなかったりという曲だけれども、今回はそういったイベントはなく、みんなで山を作ってサビでは手を左右に振って盛り上がる。
ナガさんがにこにこと笑っている。わたしは今回のライブで初めて、ナガさんが演奏中にめちゃくちゃ笑顔だということに気がついた。
いや、今までもステージの上で笑顔満開でギターを弾いている姿を何度も観ているはずなのに、ちゃんと認識していたはずなのに、今回初めて気がついたのだ。
ライブ映像でももちろん映っているのだけど、MCの時や普段の動画でしゃべっている時、終了後に少しお話したときなどは、少しクールな感じというか、しれっとしているというか、温度が低そうな印象が強い。
だからなのかこれまでだって実際にステージの上でめちゃめちゃ笑顔だったはずなのに、偶然そうだったみたいに思っていて、それが基本ステージの上では笑顔なんだ!しかも演奏中だけなんだ!ということに気がついたのだ。(遅い)

ライジングサン、遠いけどみんな来てよ、ともはや数週間後に迫ったライジングサンの話。福岡からは遠いけれど、わたしはようやくチケットを手に入れて、あとはもう準備をして旅立つだけだ。
この時だったのかなー誰かが「行くよ」って言ったのかな。亞一人くんがライブ中の殺す目を封印してフニャっとした顔で笑ったのが印象的だった。印象的だったけど、果たしてどの場面だったのか思い出せない。


中野新橋ラプソディー】
こういう曲はやっぱりナオキさんに注目してしまう。
筋トレの成果がものすごくて、ランニングだと肩が丸く盛り上がっていて本当に良い身体なんだよね。イントロのところのベースがとても好き。
Aメロのところで暗いステージを青い照明が後ろから照らしていて、シルエットで浮かび上がる亞一人くんが本当にカッコよくて、曲調と歌声とマッチし過ぎていて目が離せなかった。色のある光はいつだってステージの上の人を彩るものだけど、とにかく静かで綺麗だった。
そしてナガさんのギターソロ楽しみにしてたのにすっ飛ばしたよね。うーん聴きたかったぞ。
縁もゆかりもない中野新橋に思いを馳せる。いつかこっそり覗きに行ってみたい中野新橋。その時はハイボールを飲むんだ。


【Starlight Blues】
ミドルテンポの曲を2曲。緩急のあるセットリスト。
定番の曲だけど、聴かせる曲が定番の中にあるというのは素晴らしいと思う。「すたーらい」とこちらからも声を出して、分かりやすく盛り上がる曲というわけではないのに楽しいのだ。
ちょうど先日のインスタライブで亞一人くんが、夏は苦手で冬が好きと言っていたけれど、だからなのかなアシュラの曲は冬をイメージさせる歌詞が多いような気がする。
この曲もしっかり今歌詞を追えてないけれど、冬の中にある星空のイメージだなと。
というか、わたし自身が夏と冬だと断然冬に軍配を上げてしまうので、勝手にそういうイメージにしてしまっているだけということも考えられる。
ステージの上はいつだって暑そうだし、フロアだって汗だくなのに不思議だな。
「しー」ってやってるところも見られた。わずかだったけれど。しかしながら映像で一番良い「しー」は最初のワンマンの別の曲の時だったのだよ。この曲ではなくて。


【月はメランコリックに揺れ】


あーいぇーなんだ。今日だって。
みんな歌う準備は出来ている。相変わらずわたしは歌詞が曖昧というか、えっとどっちだっけ?ってなってしまうのだけれども、それでもやっぱりサビはフロアがあーいぇーでいっぱいになる。
去年の小倉だったか同じ福岡のここQueblickだったか定かではないが、あーいぇーだけでも歌ってもらおうと思っていた亞一人くんと、続きの歌詞を歌う気満々だったお客さんとのすれ違いが発生するなどという出来事もあったが、会場はすっかりあーいぇー照らしてよだ。
もうすっかり記憶がふわふわしていて、思い出せることも少ないのだけど押しも圧もあまりなく、一生懸命手を伸ばしながら歌うのは気持ちいものだ。
フロアから歌声を届けたら、繰り返したラストはあーいぇーの向こうからオリジナルの声がかぶさるようにこちらに戻ってくる。この瞬間がとても好きだ。


ラストのセクマシにつないでいきたい。しっかりとこの場を温めて、ツアーに誘ってくれたセクマシにつなげたいというような言葉の後は【Daling Darling】

最近はこの曲の前にライブ用のイントロがある。全部のライブに行けるわけではないので、いつからそうなったのかは分からないのだけど、音源だとカウントからすぐに歌に入るはずの曲に煽りのイントロがついた。まだ数回しか経験していないので、メランコリックより後にラス曲があるということはこれだよね、と思いながらもしっかりと馴染んでいなくて、でもワクワクしながら歌に入るのを待っているそのわずかな時間が楽しい。ぐっと後ろからの圧が強くなって、亞一人くんの身体がステージから少しだけフロアにはみ出して境界線が破られる。
わたしは中央の上手寄りにいたのだけど、少し移動して上手に来た時に、最前にいた方の手を掴んだもんだから、掴まれた方がこれまた「ひえぇえ」と声を上げていて、それを見ながら「そうだよねーそうなるよねー」と。
前回の京都ワンマンで初めて土台になった時に、わたしはもう声にならない声を心の中であげていたけれど、もしかしたら押しとどめたと思っていたのは自分だけで、実はリアルに声が出ていたかもしれないなと思ったりした。だってあれは本当に反則だと思うのだよ。

ナガさんもナオキさんもステージギリギリまで前に出てきて、にこにこと本当に楽しそうに演奏している。不思議な圧に包まれて、盛り上がったままステージが終わっていく。情報解禁からチケットを予約してその日を指折り数えて待っていた。その時間が全て集約されていて、終わってしまう寂しさを感じる暇もなく、ひたすらに大きくて最高に幸せな瞬間がそこにある。

曲が終わると共にステージが終了する。その直前にナガさんが使っていたピックを口に咥えて、ふっと飛ばすのが目に入った。ヒラヒラと落ちてくるそれは思ったよりも早く見えなくなって、慌てて足元を見る。
わたしのバッグに付けていたバッヂがひとつ落ちていて、なんてトラップだと思っていたらその近くにピックもあって、背の低さが利点となったのか息子がどちらも拾ってくれた。ピックを投げるイメージがなかったので、けっこうレアな出来事だったかもしれない。

そうしてアシュラのステージが終わった。気がつけば8曲。4バンドというライブのわりには曲数が多い方だったのではないだろうか。

 

そしてラストは今回のツアー主催である『セックスマシーン!!』だ。

セクマシは後ろで観ようと思っていたので、ひとまずフロアからバーカウンターのある場所まで移動して、フォロワーさんと感想を口にしながらお酒を飲む。

今日の箱は後ろでも充分観えるくらいの大きさで、息子は少し休んで後から入ってくると言ったので、そろそろ始まりそうな気配を感じて、わたしは先にフロアに戻った。
前回セクマシを観たのはサーキットフェスだったので、主催ライブとあればまた雰囲気が違うのだろうなと思いながら始まるのを待っていると、なんと閉めたはずの入り口が開き、後ろからモーリーが入ってきたではないか。
てっきりステージ袖からの登場だと思っていたのに、少し余裕のあるフロアを後ろにいるお客さんとしっかり目を合わせながら練り歩きながらステージまで移動していくことで、一気に空気を自分たちのものにしてしまう。

今回のライブは『挫・人間』も『セクマシ』も空気を操るのが抜群に上手くて、始まりからしっかりと自分たちの時間にするところがライブバンドとしての力量を感じさせた。
わたしはアシュラをメインで観に来ているので、アシュラの出番の時はどうあっても出てきただけで舞い上がってしまう。だから彼らがその空気を作るのが巧いのかどうかということは判断できないのだが、逆に他のバンドにおいてはその部分を意識せざるを得ないのだ。

演奏や曲を知らなくても楽しめる空気。今回はそれを本当に感じることが出来た。なんて素敵な夜なんだろう。

そして3曲目だったか、驚くべきミラクルは起こった。
ライブの定番曲である【君を失ってWow】
一番最初にセクマシを観た時に、ステージから降りてきただけではなく、サビを歌いながらフロアを練り歩き、更にはフロアからも出て行ってしまったのは衝撃的だった。
彼らのライブではお客さんは『ゲストボーカル』と呼ばれている。このスタンス、本当に素敵だ。メンバーだけではなく本日のゲストボーカルとみんなで作り上げるのがセクマシのライブだというメッセージが軸としてそこにあって、だから楽しいし、今日という日がいつだって特別なのだとそう言っている。

メインボーカルであるモーリーとゲストボーカルの歌声が響くフロア。ライブハウスの外にまで行けてしまう長いケーブル。ゲストボーカルはとにかくモーリーのマイクケーブルが絡まないように、さっと動いて捌くのだから、なんて訓練されているのだと感動しながら眺めていた。音楽関係者ではなさそうに思える人たちなのに、ケーブル捌きの俊敏さに驚かされる。

2曲目くらいでフロアに現れた息子と一緒に、モーリーとWowしながらついて行きたいねーなんてささやきあう。
セクマシのライブに行くことになってから、目標に掲げていたけれど、場所的に街中なのでどうだろうなと思っていた。再入場禁止だったし、外に出たら戻れないのでは?などと言いながら笑った。
しかしそんな予測はハズレ、わたしたちの目の前に来たモーリーが床に背中を預ける。あっという間に、わたしたちはメインボーカルを見下ろす形でWowとなった。
それだけでも、うわーこんな近くで観られるなんて…!という気持ちでいっぱいだったが、ふと起き上がったモーリーが「これがライブだ」と言った。「テレビじゃない。テレビにはこんなギョロ目のやつはテレビに出ていない」そう言ったのだ。
昔だったらライブハウスに行かなければ観られないバンドのライブも、youtubeや他の方法で簡単にライブ動画が見られる手軽さが今の世の中にはある。
それでもゲストボーカルとしてライブに参加するには、チケットを買ってライブハウスに足を運び、そしてバンドの方も物理的な距離をバンドワゴンに揺られてその場に集うことでしか叶わないのである。

そしてモーリーは息子の前に跪いて、え、え?っと思っていたらそのまま肩車をして持ち上げてしまった。
なんということだ! モーリーにリフトされた息子、曲は続いている。会場のゲストボーカルたちもモーリーon息子に向かってWowだ。

わたしが知らない、きっと誰も知らない景色を観ながら息子も歌っている。予習なんてしていなくても歌えてしまう。だって歌詞は簡単、たった一言「Wow」なのだ。

ライブハウスに子どもを連れて行く是非がある。Twitterには定期的にその話題が取りざたされる。親の勝手な都合でそんな場所に連れて行くなんて、といったどちらかといえば否定的な意見を目にすることも多い。だけれども今日のこの瞬間、息子が体験したその出来事を何か別のことで代替できるのかと問われてもわたしは思い浮かべることが出来ない。

もう少し大きくなって、思春期を迎える頃にはもしかするとこうして一緒にライブに来ることはなくなるのかもしれない。どんな場所を好きになり、何をするかは彼の自由だ。それでもこうして起こった出来事のひとつひとつが、楽しかった記憶と共に残り続けてくれることを願わずにはいられない。

そのまま息子を降ろしたモーリーはフロアの扉を開けて、バーカウンターのある方へと移動した。こっちにみんな来いと呼び寄せて、バーカウンター前の空間をギチギチの満員にしてソールドアウト状態にしてしまった。
楽しさに引き寄せられるように、そこにはアシュラを観に来たお客さんも、挫・人間を観に来たお客さんも、ゲストボーカルとしてQueblickのバーカウンターをソールドアウトさせることに成功したのだった。

『圧倒的な存在感!!』というワードがある。セクマシを象徴するその言葉通り、最後まで他のどのバンドにもない魅力にあふれたステージだった。
数年前、何も知らないときにライブを観て、すごく楽しかった記憶があるので、それからいつしかチラホラTwitterで流れてくる情報を横目で眺める機会に恵まれてからも信頼を寄せていたが、本当に楽しいライブだった。


全てのステージが終わり、その日のライブは終了した。
最近の傾向としてワンマンライブは特別で、それ以外は対バン形式でツアーを行う事がインディーズバンド界隈ではとても多い。わたしは好き嫌いがわりと多くて、全部が全部楽しめるということが少ないのだが、それでも対バンでライブを行うバンド側の意図は理解しているつもりだ。

いつだってライブはその日その場所に集った人たちだけが体験する、スペシャルな1日。
何でもアーカイブを残せてしまう現代で、手軽さと引き換えに広く浅く楽しめるようになった。しかしライブは二度と同じ時間が訪れることはない。ただそれぞれの記憶だけに残り続ける。

だから、ライブに行こう。

 

次はいよいよ、RSR2019!